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美術展テーマは「作品購入価格」
2007年09月11日 17:05 更新

■広島市の現代美術館で、画時代的(あるいは前代未聞)ともいえる収蔵作品の購入価格を明らかにした展覧会「マネー・トーク」が開かれている。「美術作品(芸術)と経済」の関係を考えさせられるその展示企画の妙に、開幕以前から、美術界や展示の関係者は言うまでもなく世間からも耳目を大いに集めている。

この企画は、同美術館(も含め公立美術館がおかれた現状)が財政的にきびしく一種の起死回生をねらった企画展と言い得るかもしれない。

そこで想起されるのは、一旦は閉園寸前にまで追いこまれ、窮状脱出の苦肉の策から展示内容を改め、現在、人気沸騰中の動物園で知られる北海道旭川市の旭山動物園の「行動展示」の発想である。今回の展示企画の発想やアイデアも、イベント企画に大いなる刺激となるのでは……。

アンディ・ウォーホルのスープ缶をモチーフにした「キャンベルスープⅡ」300万円(87年度)、便器にサインしてそれが作品になったことで有名なマルセル・デュシャン「フレッシュ・ウィドー」1,200万円(87年度)、戦後アメリカの抽象画と彫刻を代表する旗手フランク・ステラ「ラッカー」7,600万円(92年度)、それに水玉模様で知られる草間彌生「THE MAN」1,155万円(99年度)……等々、同館所有の80点(期間中は入れ替えがあり約100点の展示/館の総収蔵数約1,400点)の作品が展示されている。

展示作品に添えられた作品名や美術家、制作年などが記されたパネルと共に「――000,000円」と数字のゼロがいくつも並んだ購入価格と購入年度が書き込まれた小さなパネルが掲げられている。さりげない小さなパネルだが、購入価格の数字は、来館者の目を大いに引き留めてやまない。

しかも九つにグループ分けした会場の構成も購入価格が基準である。

「寄贈(つまり購入費ゼロ)」エリアからはじまり「100万円未満」のエリア、継いで「100万円以上~300万円未満」という具合に価格帯別に展示が構成され、もっとも高額なエリアには「5,000万円以上」の作品が8点展示されている。

会場には他に、美術家や評論家や小説家や哲学者らの「芸術」「経済」「価値」に関連する才知に富んだ一言をなぞった約60のパネルが掲げられている。

「絵画の価値を計る指標はただ一つ、それは競売場である」(ルノワール)、「芸術は無駄な物をつくること」(ウォーホル)、「芸術は、アートは、マネーとの関係無くしては進めない。一瞬たりとも生きながらえない」(村上隆)

こうした展示に来館者は、「芸術とは?」や「美術館って?」、さらに「美術(芸術)と経済とは」などについて、己の芸術感や美術感、また芸術や文化がもつ経済的価値観などについて問われ、考えを巡らせる趣向と相成る。

■展覧会の企画は、フリーのキュレーター窪田研二氏。氏は水戸芸術館の現代美術センターで学芸員として腕をふるった実績があり、昨年からフリーに身を転じている。

もちろん窪田氏の能力を買われての起用であるが、企画の背景には、同館が指定管理者制度に移行後、市から出向していたベテラン学芸員3人が移動で去ってしまい学芸員の空席が続いたり、財政的に厳しかったりなど館運営に若干の秩序の乱れが生じた状況で生まれた企画である。

ただ美術館の内情はどうあれ、今回の展示企画が持つ意味はきわめて大きい。

なぜなら、来館者はさまざまな角度から芸術の本質を問われる美術展に接することになるからだ。同時に美術館にとっては、収蔵作品の新たな視点での見直しにもなるし、美術館の存在や価値を高める意義にも関わってくるので、この展示企画が持つ意味は単に一美術館の試みというだけではなく、多くの美術や文化の関係者、さらにはイベント業界、あるいは発想やアイデアをひねり出す意味でも各方面から注目を集めるものとなるかもしれないからだ。

■いい例が旭山動物園だ。いきいきと活動する動物の真の姿を強烈に印象づけた「行動展示」といわれる展示手法(つまり発想やアイデア)は、それが国内各地の動物園の展示手法に大きな影響を与えただけではなく、集客を企画するさまざまな人たちにも多大な影響を与えている。

それは「行動展示」の手法が動物展示の根源にまでさかのぼり、その手法の発想自体が、たとえば集客の企画やアイデア創出に多くのヒントを与えることになったからだ。

今回の企画が旭山動物園の手法に倣(なら)えるかどうかはともかく、すでに話題になっている以上、今回の企画の発想やアイデアはこれまでの美術品展示(展覧会)の常識やタブーを打ち破る、時代を画する展示企画へのブレークスルーといえるかもしれない。

ただし一方では、芸術の価値を金銭で論じる展覧会などとその品性について云々されそうだが、そういう指摘も含め、もしかしたら今回の企画の発想は成るべくしてなったと言えるかもしれない。そしてそれは、時代がもたらしたものだと。

■そうした時代の幕をこじ開けた、あるいは影響を及ぼした人物の一人として、上述の才知に富んだ一言でも紹介したアーティスト村上隆があげられる。

なにしろ今現在、日本人で世界に通用するアーティストの頂点にたつ人物である。作品が1億円で売買されるアーティストである。その影響力は大きくて当然である。

村上隆のその著書『芸術起業論』は、日本の美術界に冷水を浴びせ、いい加減、島国日本の国内だけで通用する芸術感やアート感、文化感に半ば脅迫的なまでの覚醒を迫っている。

「なぜ、これまで日本人アーティストは、片手で数えるほどしか世界で通用しなかったのか」からはじまり、「欧米の芸術の世界のルールをふまえていなかった」からとか、欧米の美術の文脈の下地を把握しなければ「美術の本場にルールの違う戦いを挑むことになり、相手にされない」とか、「一作品1億円の価値を理解するには、欧米と日本の芸術の差を知っておく必要があります」だとか、「デュシャンが便器にサインすると、どうして作品になってしまうのか」だとか、便器に価値が生まれるのはそこで認められるのが「観念や概念だから」だとか、その観念や概念こそが「価値の源泉でありブランドの本質であり、芸術作品の評価の理由にもなる」だとか、「日本人の好き嫌いだけで芸術作品を見るのは単に主観で判断しているだけで、分かりやすいもののみを評価することになってしまう」とか、そういう主観的な判断は「客観で歴史を作ってゆく欧米の文脈からはかけ離れてゆくことで、欧米の美術の歴史や文脈を知らないのは、スポーツのルールを知らずにその競技を見て、つまらないと言ってるようなもの」だとか……等々、驚くべき(あるいは画期的な)物言いで全編が編集しつくされている。

こうした内容が村上隆から発せられている以上、その発言が次第に浸透して受け入れられつつある時代になって来ているのではないか。そういう意味でも、今回の展示企画は出るべくして出てきた、成るべくして成った企画ではないのか。

はたしてこの美術展の展示がどのような影響を及ぼすものか、今はまだ何とも言えない。それでも、美術や文化の展示に影響を及ぼし、ひいてはもっとくだけたイベントの展示の在りようにも変化が訪れるのではないのか――。

※参考 日経新聞、『企業芸術論』村上隆、その他


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